必要な要素技術としては「画像取得に関わる技術(目視判別の「目」に代わる技術)」、「判別に関わる技術(目視判別の「脳」に関わる技術)」および「データに関わる技術」があります。

まず一つ目の、「画像取得に関わる技術(目視判別の「目」に代わる技術)」について説明します。

画像取得には、撮像するための「カメラ」、撮像する範囲を定める「レンズ」、判別箇所を明瞭にするための「照明」が必要となります。

1. カメラについて

カメラは、普段目にする民生用カメラと、生産ライン等で主に利用される産業用カメラがあります。民生用カメラはオートフォーカス機能や色味の調整機能など、多機能であることが特徴です。一方で、産業用カメラは様々な環境に対応可能な耐久性や連続稼働への対応など、安定して撮像できることを特徴としています。ここでは、産業用カメラに関する選定要素を解説します。

(1) 種類

主に、ネットワーク(IP)カメラとマシンビジョンカメラの二つに分類されます。ネットワークカメラは監視用途に多用され、マシンビジョンカメラは画像処理を目的として、製造ラインの検査や医療、研究分野で使用されます。ネットワークカメラはマシンビジョンカメラと比較してレンズ一体型になっていることが多く、安価で簡単に接続できるカメラが多い一方で、マシンビジョンカメラのように細かな調整を行うには不向きな製品が主流です。マシンビジョンカメラは、解像度や種類、レンズなど、様々な要素を加味して最適な環境を構築可能ですが、一定のノウハウが必要となります。

(2) エリアカメラとラインスキャンカメラ

マシンビジョンカメラはセンサーの並べ方によってエリアカメラとラインスキャンカメラに分類されます。エリアカメラは、センサーを縦×横のマス目上に並べることによって、一度の撮像で縦×横の2次元の画像を撮像します。ラインスキャンカメラは、センサーを一列に並べて1次元の画像を撮像し、製品、またはカメラを一方向に動かしながら撮像し、1次元の画像を並べることで2次元の画像を取得します。エリアカメラは広範囲を一度に撮像できるため、設置は簡単ですが判別する範囲内で照明を均一に照射する必要があります。ラインスキャンカメラは、センサーが捉える1次元上で照明を均一に照射すればよいため、照明の選定は容易になる一方で、製品やカメラの搬送制御が煩雑となります。このように、エリアカメラとラインスキャンカメラはそれぞれメリット・デメリットがあるため特徴を理解してどのような画像を取得したいのかを踏まえて選定することが重要です。

(3) 解像度(ピクセル数)

解像度(ピクセル数)はカメラが捉えるディテールの細かさを決定します。判別したい対象の製品の全体サイズと、検出したい対象(例:キズ、異物)のサイズから、必要な解像度を選定します。1つの画像内で撮像する範囲が広くなるほど、1ピクセルあたりの撮像範囲も広くなるため、細かな対象は見えにくくなります。一方で、高解像度(ピクセル数を増やす)にすることで、画像取得や判別に必要な時間が増加し、且つ保存するデータ量も増えることから利用環境に応じて最適な解像度の見極めが必要です。

(4) センサーサイズ

レンズを通してカメラに取り込んだ光を電気信号に変換する素子がセンサーです。このセンサーのサイズによって、撮像する画像の色情報の量や画像自体の大きさに影響を与えます。センサーサイズが大きいほど画像内の色情報が増え、画像自体の大きさも大きくなります。

(5) インターフェース

取得した画像データの処理には画像解析ソフトウェアを搭載したコンピュータが必要になります。カメラとコンピューター間の接続方法にはUSB、GigE、Camera Link、CoaxPressなどがあり、カメラや画像解析ソフトウェアの種類によって選択可能な接続方法が決まります。また、それぞれに転送速度や接続距離、コストの面で異なる特徴があります。汎用的に使われるUSB接続は、多くのパソコンで接続端子を有しているため接続しやすいメリットがありますが、製造現場において発生する電磁波によりパソコンへ画像を取り込む際にノイズが発生する可能性があります。その他、使われる手段としてGigEによる接続は、電磁波によるノイズに強く、長距離の接続に適していますが、別途カメラへの給電方法の準備が必要となります。

2. レンズについて

最適な撮像画像を取得するには、検査対象や使用環境に応じて最適なカメラとレンズの組み合わせを選定することが重要です。そのためには、レンズの焦点距離によって、取得したい画像の面積である撮像範囲と、レンズと製品までの距離を示すワーキングディスタンスの関係性がどのように変わるか理解する必要があります。また、カメラのセンサーサイズとレンズの関係性も重要です。民生用のカメラはオートフォーカス機能を有するカメラを使用するため、レンズもオートフォーカスに対応したレンズを使用する場合もあります。しかしながら画像処理を行う場合は、オートフォーカス機能を用いると意図していない場所にピントがあうことや、フォーカスを合わせる時間が発生することなどから、多くの場合、手動でピントを調整して使用します。

(1) 焦点距離

レンズの中心から撮像素子までの距離を焦点距離といいます。焦点距離が短いほど、撮像される範囲は広くなり、焦点距離が長いほど焦点距離は狭くなります。一般的には焦点距離が短いレンズは、レンズ中心からの画像中心と画像周辺部までの距離の差が大きくなり、中心部と周辺部でピントが合わせにくくなります。そのため、焦点距離が10mm以上のレンズを目安に選定します。

(2) ディストレーション

レンズ周辺において画像が歪む現象がディストレーションです。レンズ仕様や焦点距離によって歪む量、歪む箇所が異なるため、選定時にはどの程度の歪みが発生するレンズなのか、歪みは判別に影響しない箇所なのかを把握した上で使用する必要があります。

(3) カメラのセンサーサイズの影響

センサーサイズが大きくなると、撮像範囲の外周部にレンズ筐体が映りこんでしまい、画像として黒く表示されるケラレと呼ばれる現象が発生します。多くのレンズは対応可能なカメラのセンサーサイズが示されているため、選定時に使用予定のカメラのセンサーサイズが対応していることを確認することが重要です。

(4) ワーキングディスタンス

レンズ先端から被写体までの距離を意味します。ワークディスタンスが大きくなるほど撮像範囲は広くなり、小さくなるほど撮像範囲は狭くなります。

以上のことから、レンズ選定においては、カメラのセンサーサイズ、必要な撮像範囲、設置環境においてどの程度のワーキングディスタンスが取り得るのかを確認の上、これらの制約条件の中で最適な焦点距離を決める必要があります。

3. 照明について

照明は、対象物の特徴を正確に抽出するために重要な役割を果たします。対象物の画像を撮影する際に、光の当て方により有効な画像取得につなげるのが照明の役割です。例えば、照明の種類を変更することで、光の照射角度や色、均一性の調整が可能です。また、この調整により画像内における異常部の写り方が大きく変わります。どれだけ優れたカメラ、レンズを用いても照明の選定を間違えてしまうと判別したい対象が撮像できないケースもあるほど、画像処理において照明は重要な位置づけを担っています。

(1) 直接反射光・拡散反射光・透過光

照明の種類や検査対象の製品と照明の位置関係を変更することで、カメラが捉える光の種類を選択します。直接反射光は、照明に直線光成分が強い照明を用いて、かつ製品表面で全反射した光を捉えます。拡散反射光は、製品表面で拡散反射した光をカメラで捉えます。透過光は、製品を透過した光をカメラで捉えます。それぞれ、以下の特徴があります。

  • 直接反射光:表面状態の微少な凹凸の違いを捉えやすくなります。
  • 拡散反射光:人の目で見ている状態に最も近い状態が拡散反射光を捉えている状態です。色情報や、製品表面の風合いを捉えやすくなります。
  • 透過光:不透明の製品の場合、透過光の使用により製品端部のコントラストが上がり形状を明確に捉えやすくなります。また、透明な製品内の内包物の判別に最適です。

(2) 製品の形状・サイズに合わせた照明形状

照明にはバー型、リング型、ドーム型、面型など様々な種類がありますが、製品の判別箇所全体に光を均一に照射することが可能となる照明のサイズや形状を選定する必要があります。

(3) 光の波長(色)の種類

短波長(青色)の光は製品表面で散乱しやすいため、細かな傷を明るく撮像でき、長波長(赤色)の光は製品表面で散乱しにくいため、細かな表面影響を受けにくいといった特性があります。また、例えば赤色の製品で黒色の異物を判別したい場合は、赤色の光を照射することで赤色の部分を白く見せ、黒色の異物を見えやすくする、というように、光の波長を変えることで色の見え方を調整することも可能です。

(4) 製品と照明の配置

照明と製品の位置関係もまた、撮像する画像に大きく影響します。例えば、照明を製品に対して浅い角度(=カメラの撮像方向に対して垂直方向)から入射し、その反射光をカメラが捉える場合、製品表面に凹凸がある場合、発生した影を捉えることで結果的に凹凸の情報をカメラが捉えやすくなります。照明を製品に対して深い角度(=カメラの撮像方向に近い角度)から照射した場合、表面の凹凸情報は捉えにくくなる代わりに、大きな変化のみをカメラが捉えやすくなります。

このように、照明の選定によって「判別したい対象を明確にする」には様々な観点を考慮した上での調整が必要となり、画像処理による判別の重要で、かつ躓きやすいポイントとなります。

4. まとめ

本項では、画像取得に関わる技術における主要な要素である「カメラ」「レンズ」「照明」について詳しく説明しました。
「画像処理技術を活用した不良の判別」を行う際は、どうしても画像処理に着目しがちですが、不良が画像内に写っていなければどれだけ画像処理が優れていても正しい判別はできません。判別する製品と不良内容に応じて不良部分と正常部分の違いがわかりやすく撮像できるよう、適切なカメラ、レンズ、照明の組み合わせを選定することが重要です。